高田さんとの出会い(3)

 ドス恋!くぼうちでごわす。なんかGoogle様でおいどんのサイト名である「ドス恋!青春白書」を検索すると、おいどんとは別のサイトが最上位として表示されるでごわすよ。つか全然知らないサイトが「どすこい青春白書」という名前になっているでごわす。これは今話題になっているiPadが実は富士通で既に別製品として商標登録されていてそれが商標権を売却することで解決したというアレでごわすか?おいどんはそんなにお金持ってないでごわす。いくらオカビのビジネスが大成功を納めたといってもそれは買いかぶりすぎなのでごわす。時価総額2500億ドル以下なのでごわす。勘違いしないでほしいでごわす。
 お話がそれてしまったでごわすが、高田さんのお話でごわす。高田さんは今回開発しているゲームのことを熱心にはなし始めたのでごわす。
「くぼうちさんは、リア充に対してどのような意見をお持ちですか?」
「そ、そうでごわすな。リア充は彼女がいて、愉快な友達がいて、サークル活動も熱心で、とにかくいけ好かないのでごわす。リア充爆発しろなのでごわす」
「おやおや、くぼうちさん、随分過激な思想をお持ちですね。しかしその意見、少し前は全く同意見でした。まあ、かつての話ですが」
「今は違うのでごわすか」
「全くの逆です。今や羨まれる存在ですから。とくにくぼうちさんのような性的弱者から」
「せ、性的弱者・・・」
「くぼうちさん、あなたのスケジュールはどうなっていますか。リア充並に書ききれなくなってパンクしたことありますか。お塩先生ばりに毎日ケータイの連絡先を削除し続けなけらばならないほど新たな連絡先が増えたことありますか。あなたならせいぜいらくらくホンで十分じゃないですか。」
「うう・・」
「そこがリア充との違いなのです。入れることのないスケジュール、連絡帳。いくらテクノロジーが進歩して膨大な記憶容量が増えたところで、それを入れるデータがなければなんの意味もありません」
「しかし、今からどうやってリア充になれるというのでごわすか」
「それが今回のゲームなのです。我々ではこのゲームのプロジェクトコードを”L#”と名付けています。まあ、++(プラスプラス)の先、という意味ですね」
「そのぷらすぷらすというのは、ひょっとしてアレでごわすか・・・」
「これ以上は詮索しないでください。私にも守秘義務がありますので」
 高田さんは続けたのでごわした。
「今までのゲームというのは、せいぜいゲームの中での話です。それが現実世界にリンクすることはありません。まあ、クリスマスにケーキを前にして過ごすという高等な方もいますが、それは一般的ではありません」
「しかしこのL#は違います。デートの予定をつけたら、それがクラウドのカレンダーデータとして、プレイヤーの予定表に記録されます。PCだけでなく、iPhoneで同期を取っていれば、こちらでも確認できます」
「さらに、予定をリマインダに登録しておけば、予定時刻付近になるとアラートを出すこともできます。これでうっかり予定を逃してしまうなんてことはなくなるのです」
 なんだかおいどんにはちょっと疑問だったのでごわす。
「し、しかしそこまで厳密に時間を守る必要というのは・・・」
「くぼうちさん、一つ大事なことを忘れてませんか。もしこのようにスケジュールがびっちり埋まっている場合、ほかの人からの用事がダブってしまった場合、くぼうちさんならなんと言いますか?」
「うーん、ごめん、デートがあるからこの日は無理でごわす・・あっ」
「そうです。”デートがあるから約束をキャンセル”というリア充ならではのお断りができるのですよ。しかもデートに行く先も調べなきゃいけないから突っ込まれても何の問題もありません。だって本当にデートに行くのですから。GPSで位置情報を調べますから、嘘はできません」
「さらにこのデートの後、女の子からメールが届くようになっています。これもプレイヤーの携帯にそのまま届くようになっています」
「たしかにリア充っぽいでごわすな!」
 なんだか高田さんの話に興味がわいてきたのでごわす。
「しかもそれだけではありません。これにはまだほかのマーケティング要素が混ざっているのです」
「ほかのマーケティング要素、でごわすか?」
「そうです。このデート場所は実在の場所を指定するようになっていますが、この場所を我々が特定の場所に行くようにします。当然ながらそこの場所は少なからずのお金が落ちます」
「そうなるでごわすな」
「水族館や動物園といった施設とタイアップして、バックマージンを受け取ることも可能なのです。既に水面下では交渉が進んでいます」
「そ、そうなのでごわすか!」
 ただのギャルゲーかと思っていたのでごわすが、なんだか大変なことになっていたのでごわす。
「このソフトがリリースされれば、日本は変わりますよ」
「さ、さすがは高田さんなのでごわす! カッコイイのでごわす!」
 おいどんはすっかり高田さんの話に聞き入ってしまったのでごわす。
「本来はここまで話すつもりはなかったのでごわすが、くぼうちさんだから話しました。なぜなら、くぼうちさんも日本を変えられる人物だと踏んでいるからです」
「え、そうなのでごわすか!」
「もちろんです。そうでなければこんな大事な話はしません。そしてもこの話はもう無かったことになりそうなのです」
 おいどんは高田さんの相談ならなんでも乗ろうと思っていたのでごわす。
「なんでそんなことになるのでごわすか!悩みならなんでも言ってくださいでごわす!喜んで話を聞くでごわす」
「そうですか、それはありがたい」
 そう高田さんは言うと、ゆっくりと思いを語り始めたのでごわす。
「実は、このプロジェクトは今までにない革新的な技術を盛り込みすぎて、開発費用が想定より大幅にかかっているのが現状です。リリースすれば回収できるのは目に見えているのですが、その前に資金がショートしてしまうとリリースすらできません」
 高田さんは腕を組み、右手の人差し指をおでこに当てており、その姿から困っている様子が伝わってくるのでごわした。
「委託会社から資金を増加してもらうことができないのでごわすか?」
「できません。実はこのプロジェクト自体、委託会社でも意見が分かれています。ま、その実体は政治的なものですが、このプロジェクトの責任者をよく思わない人物が難癖をつけているのですよ。ですので、限られた予算で作ったことにしないと、欠陥プロジェクトとして見なされてしまいます」
「そ、それは困ったでごわすな」
「なので、現在は私の個人的な資金で何とかしていますが、それも限界です。このままだと、プロジェクトは凍結しなければならなくなります。あと500万ほど資金があれば、なんとかなるのですが・・・」
 おいどんは迷ってなかったのでごわす。
「その資金、おいどんが調達するでごわす!」
「えっ?」
「おいどんが500万を出すでごわす!だから開発を続けてくださいでごわす!」
「くぼうちさん・・・あなたは何て人なんだ。まさしく日本を変える男。現代の坂本竜馬です」
 高田さんの目にはうっすらと涙を浮かべているのがわかったのでごわす。
「わかりました。くぼうちさんの心意気、感謝いたします。ありがたく資金として使わせていただきます。リリースの暁には必ずお返しします。もちろん、配当込みで」
「気にしないでいいでごわす!使ってくださいでごわす! ・・・ちなみに配当ってどれくらいでごわすか・・」
 おいどんはちょっと配当という言葉に弱いのでごわす。
「まあ、ざっと提供資金の20倍と考えていいと思います」
 高田さんはサラっと言ったのごわした。
「に、にじゅうばい!いちおくえんでごわすか!」
「配当はさらに続く予定ですので、最終的には資金の30〜40倍くらいになるんじゃないでしょうか」
 しっかし高田さんというのはもの凄い人なのでごわす。おいどんはかつてないビジネスの予感に酔いしれたのでごわす。

 それから数ヶ月後、なんだか様子がおかしいのでごわす。高田さんに連絡してもいつも留守電だし、メールを送っても返事が遅いのでごわす。なんだかイヤな予感がしてきたのでごわす。おいどんは気になって高田さんの経営している会社のビルまで行ったのでごわす。
 住所通りのビルまで行ってみると、そこはビルではなく、銭湯があったのでごわす。ちょうど近くを歩いていたおばさんに聞いてみたのでごわす。
「すんませんでごわす、ここの近くにビルがあるはずなのでごわすが・・・12階建ての・・・」
「はあ?このあたりはそんな高いモノ建ったことないよ。こんな下町に建つなんてこたないよ」
 た、たしかにそうなのでごわす。それでも何かの間違いではないかと思い、高田さんと知り合った企業家交流会に顔を出したのでごわす。
「いやー、マジでそんなことあんの?ウケるんだけど!」
「いやいやマジ。高田って!」
 着いてみると、なんだか高田さんの話で盛りあがっていたのでごわす。
「ど、どうしたのでごわすか。高田さんの話でごわすか」
「そうそう。高田君がね、詐欺やって逃亡中なんだってさ。それがまたウケるだけど、ギャルゲの開発資金調達をネタにした詐欺らしいんだ。しっかし、詐欺のネタになんでギャルゲなのかねえ?」
 おいどんは目の前が真っ暗になっていくのが分かったのでごわした。
「いやいや、あいつはときメモのコアなファンなのよ。しかもPCエンジン版しか認めない偏屈な奴でさ、よく他のユーザともめ事起こしてたみたいよ。そのうちなんだかギャルゲユーザそのものが全員敵に見えるようになったらしいぜ」
「おいおいマジかよ〜。こええなあ」
「ま、俺もその詐欺の話を聞かされたことがあるんだけど、あまりに胡散臭いから適当なこと言って断ってきたよ。しっかしあんな詐欺にひっかかる奴もいるんだなあ・・・ってくぼうちさん大丈夫?顔真っ青だよ」
 おいどんの視界はゆらゆらと揺れ、もう立つこともできなくなっていたのでごわした。